このナノバイオインターフェース技術を用いて、温度応答性ポリマー(PIPAAm)を、細胞培養用のシャーレ等プラスチック成型体に固定すると、ポリマー表面は32℃を境に親水性⇔疎水性に可逆的に変化します。つまり32℃以上ではシャーレ表面は疎水性なので、細胞などが付着できる状態になります。この状態では、細胞は細胞外マトリックス(接着因子。“のり”のような機能を持った蛋白質)を繰り出し、シャーレ表面に接着し、増殖する事が出来ます。

しかし32℃以下ではシャーレ表面は親水性に変化するので、それまで付着していた細胞は、接着因子を保持したまま非常に剥がれやすくなります。これはそれまで吸着していたシャーレの表面それ自体が、32℃以下では無くなってしまうからです。

細胞の剥離イメージ図

このように温度応答性ポリマーを固定化したシャーレ(商品名:UpCell及びRepCell)を用いて細胞培養・剥離を行うと、表面処理を施していない場合に比べ以下の様な特徴及びメリットがあります。

特徴
細胞が温度変化のみで剥離・回収が可能
このシャーレを用いると、細胞の回収に際して従来のようなトリプシン等の酵素を用いる必要が一切ありません。トリプシンは細胞間の結合因子や接着因子を破壊し、細胞に大きな傷害を与えます。

メリット
1. 縫合が一切不要
細胞の剥離に際してトリプシンが不要の為、細胞の接着因子である「のり」を分解せずに「のり」の機能を保持した細胞の回収が可能です。これにより、培養組織の移植においても縫合が一切不要である程、高い生着率を達成しています。

2. 細胞をシート状に回収する事が可能
トリプシン不要のため、細胞間の結合因子である「のり」を分解せずに「のり」の機能を保持したセロハンテープの様な1枚の細胞シートを得ることができます。細胞シートはサイトカインの産生放出能が高く、移植に供すると創傷治癒に高い効果があります。本技術を用いて微小領域のヒト角膜切片から移植用角膜上皮の培養、再生及び回収が可能である事を明らかにし、臨床研究が進んでいます。

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UpCell®で培養し、コンフルエントになったヒト角膜上皮細胞をシート状に剥離。 細胞シートの回収原理アニメーション

3. 回収した組織の積層化が可能であり、臓器が構築できる唯一の技術
我々は回収した細胞シートを、簡単に移動させ、他の細胞シートに重ねるシートの積層化、重層化する技術を既に保有しています。トリプシン不要なので細胞の接着因子が機能しており、シートとシートを重ねるだけで簡単に積層化出来るのです。この技術は組織、器官の構築のための3次元マニピュレーションを可能にしています。
我々は心筋細胞シートの3次元的培養を行い、組織と組織が構造的にも機能的にも一体化して、心筋シート全体が同期して拍動する心筋様組織も既に構築しています。この心筋シートをヌードマウスの皮下に移植したところ、心筋組織内に血管形成を観察し、長期に渡り自律的に拍動する事を確認しました。

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拍動する心筋シート。
UpCell
®で培養した再生心筋細胞シートを4枚に積層化。
積層化した心筋シートの同期アニメーション

以上の様な技術を我々は“細胞シート工学”と呼んでいます。